ボルジアあるいは優雅なる冷酷」を読み進んでいるせいか、作品の完成度において、いささか
不十分なところありと認識した。
とくに前半の同級生たちとのつきあいから上級生の新しい仲間たち結成への移行が、あまりうまく
描かれているとは、言い難い。けんか別れになったシーンも、つまらない理由ひとつで描写されて
いるが、自伝的小説3部作の第一作「しろばんば」における、複雑多岐にわたる人間交流から
主人公が、明日を考えていく姿勢とは、異なり進展がないばかりか、前作のいきおいそのままに
創作を開始して、テキストの織りこみ方に不十分なものがあったのではなかろうか?
とはいえ、中々愉快で清新溌剌とした内容であり、まずまず楽しめた。また同時に進めた他2作
より、行間も多く読みやすく、また肩のこらない内容であり優先的に読みすすんだのも事実である。
話は、変わるが漱石の「彼岸」は、新聞連載だったということだけど、書きおろしではなく、連載で
ここまで、次からつぎへとストーリー展開できるのには、舌をまかずにはいられない。
この作品を書く前に“修善寺の大患”という生命にかかわる大病を患ったと言われているが、
それまでの凝った文章でひっかかりが多い高尚な文章から、村上春樹ばりにノンストップでストーリー
の展開を追える様な仕上がりに進化している。
しかも村上氏のほとんど未洗練で性的ストーリー&メタファー打ちまくりしかないと言っても過言では
ない作品レベルとは、格の上で全然違うような気がしてしかたない。
漱石は、かなり変わった人物で、半ば人格破たんしていたと言われるが、日本文学史上稀に見る
天才あるいは傑物だったのではないか。
森鴎外も並んで文豪なんて言われるけど、その作品レベルは、はるかに上のような気がする。
なにも漱石を神格化するつもりなんてこれっぽちもないが、作品の完成度、創作性、洗練度合、
人物描写力いずれをとっても過去のノーベル文学賞受賞者の作になる作品に勝るとも劣らない
出来栄えだというのは、否定できないのではないだろうか。
文学を人間がどう生きていくべきかという永遠の命題についての問いかけ、すなわち作品の
登場人物の生き方を通じてのシミュレーションあるいはアプローチといったコアな定義をすれば、
文学性において古今の作家のうち最右翼に位置していると言っても過言ではない気がする。
ただ、漱石とはいえやはり生身を持った人間だったのであり、前期代表作3部作のうち、最終作「門」
のような出だしから前半こそおおいな期待を抱かせる作品性ながら、結局は体力的に精神的に
もたなかったのか駄作になってしまった作品があることをバランスをとる意味で付け加えておこう。
この作品を稀に見る名作だというプロの若手作家までいるけど、多分他の漱石の作品読んでない
のか、はじめて近現代の文学の水準の高さに接してのぼせてしまっただけだろう。
0 件のコメント:
コメントを投稿