2010年4月10日土曜日

岸博幸さんの説明は、ちょっと違うんじゃないか?と思った。(保険分野に限っては)

 最近、TVなどでよく見かける経済分野の若手論客に、元通産官僚で現在大学教授の岸博幸氏がいる。
経済分野の論客としては、なかなか鋭い切り口での論評で評判で、特に官僚の政治家だましの手口の
説明など、たとえば“霞が関文学”など、興味深いトークが新鮮だ。
 こういう若手、といっても本来なら中堅からその上という年代だが、この日本では団塊世代が、次の世代
の有望若手の才能を摘みまくったせいもあってか、イキのいい人材がほとんど枯渇していると言われて
いるが、団塊世代が、ようやく引退世代になり、なんとか生き延びたこういう人たちが、ようやく注目を浴
びるようになったのかもしれないと思った。もっとも岸さん自体が、あてはまるかどうかはわからない
が・・・・・・・

 しかしなぜ、TVやメディアに出てくるコメンテーターや評論家は、専門外の分野で、精通してないこと
でも、平気で断定論調で説明してしまうのだろうか?と思うことがこの岸氏にもあった。立場を考えれば、
それは専門外なんでよくわかりません・・・・とは言えないんだろうなあ、と思うのだが聞く方が、信じて
しまうじゃないかと思わずにはいられなかった。

 いわく、ラジオ番組での発言、郵便貯金資金をめぐる外資金融の鵜の目鷹の目獲得戦略をめぐる
話題で、日本の保険会社は、外国の同業他社とちがって、外国に出て行かないで国内ばかりで営業
している、それは競争力がないからだ・・・・・・という主張。

 ちょっと勘ちがいと事実錯誤をしているらしい。

 
 もっとも、MCからこのテーマにふられたとき、一瞬声がひっくりかえり上ずったので、専門外なんだろう
とは思ったけど、どう応じるかと思ったら、こうだった。断定してしまった。聞いた人のほとんどは、信じた
ことだろう。元通産官僚、有名大学教授、小泉竹中コンビのブレーン、米国アイビーリーグMBA、とここ
まで箔がついていれば、日本は、ほぼ無条件に受け入れられる社会だし。
 
 一般的な話だが、日本ではオピニオンリーダーの言うことは信じてはいけないと思う。言うことはダメ
だ。検証できないから。即座に判断できる人なんて、専門分野のごく一部だけなんだから。書かれたこと
は、検証できる。書かれたことから情報を得るべきじゃないか?

 日本の保険業者(保険業法で言う)が国内でばかり営業するのは、国内での営業のみ(国内で引き受
けし保険の目的=対象物が海外に移動すること含む)を認可する国内法令の免許を取得しているから
だ。外国で営業するには、外国の法令にしたがった設立が必要になり、完全な別会社として活動させ
なければならないはずだ。したがって、今ある日本社が海外でそのまま営業するなんてことは、ありえな
い。実態が、日本本社の別働隊として派生したとしても(その例は、今のところないが)、組織上は、完全
な別会社になる。外資が、日本で活動するにあたっても、日本国内の免許を得て活動している。

 この違いが非常に理解しにくいところである。(おそらくほとんどの人は、わからないだろう)。すなわち
日本社が、仮に海外に出ようとすれば(今のところ、その徴候はない、それは後段に書く)別会社にせざ
るを得ず、外資が日本市場に来る時は、そのまま来れる(可能性が高い)。外国社が日本に来てばかり
いるのに、日本社は海外で活動していない・・・・・・これらの相違を単純にならべて考えてはダメなので
ある。個々に検証しないと事実が見えてこない。外資は、本国でどういう規制を受けているか、さだかで
はないけれど、外国にも日本国内のような厳格な業法が存在して、それをクリアして、日本市場に来てい
るという前提の推測は、かならずしもあてにならないのだ。もっとゆるーく営業許可を得ているのかもし
れないのである。海外市場、日本市場、それぞれの市場を同列に比較するのが、そもそもまちがい
であり、日本市場という限定的な市場での営業展開という側面に限って考察したほうが、ずっと分析しや
すいのである。

 世界的な保険市場レベルで、きわめて利益率が高く、モラル面でも世界的に稀有なくらいに良好な
日本市場を狙って、複雑で負荷のきわめて大きいハードル(許認可および営業監督体制)を乗り越えて
も来たいと思ったから、外資は来ている。本国市場とは、直接の関係はない。たとえば、アメリカンファミ
リーなどのように、日本では知名度が高くても、本国では、あまり知られていず、きわめてマイナーな会社
なのだが、日本市場を最大マーケットにしているのもある。プルデンシャルだって、その実態は半分以上
いや、ほとんどと言っていいくらい中味は、日本社と言ってさしつかえないだろう。アリコ、AIUもしかり。
本国のAIGとは、一線を画した独自の成り立ち、および路線で現在まで展開してきている。業界では、
日本社よりも日本的体質(決していい意味でなく)と言われている。

 外資が、本国市場でも活躍しているかどうか、そして日本市場でも・・・・なんて切り口は意味がないの
である。また、日本社が外国市場に出て行ってない・・・というのも、上記のように、まるでとんちんかんな
指摘なのである。

 さて競争力面であるが、これも海外市場と日本市場を同列に比較しているから、事実誤認を導いて
しまっている。これを論じだすと一冊の本を書かねばならないくらいの分量になるから、あえてしないが、
もし、外資が競争力に勝っているなら、生損保契約の過半をはるかに超えるシェアが日本社に取られて
いる事実をどう説明するのか?
 日本市場の後進性?とでも説明するのだろうか?

 金融ビッグバンと騒ぎ立てた橋本政権からはや10年以上、ふりかえってみよう。本当に、金融サービ
スあるいは保険みたいなリスクヘッジ商品は、それまでと比べて見違えるほど進歩しただろうか?改良
されたろうか?国民生活の向上に寄与してきただろうか?
 サービス供給面から見れば、たしかにいろんなサービスは増えたろうけども、需要(実需としての需要)
と本当にマッチしたろうか。もちろん、それなりにマッチングはあったろうけど、人間生活なんて10年
20年でそんなに変わらないから、保険分野で言えば、新しい大きなリスクが生まれてくるなんてことは、
滅多にないのだから、実需自体(保険金請求事案)はそれほど変わらないのではないだろうか。
 とすれば、あまりにサプライサイド(企業サイド)からの見識に過ぎなかったのではないか?競争力なん
て切り口も、一見需要側(消費者)よりの視線のようでも、実はそうじゃない・・・・・という気がしてくるのは、
まちがいだろうか・・・・・・・

 補足:外資が日本で挙げた利益を本国に持ち帰っている・・・という指摘も番組内であったが、会社
レベルでM&A資金などで国のボーダーを越えるケースがないわけでもないし、本国採用の人間が
帰国後、日本での給与差額の支払いを受ける(日本では高額所得者の税率が高い)ということもある
が、基本的に日本国内で営業しているかぎりは、利益に対する課税(法人税、住民税、事業税など)
は、国庫および地方会計に納められている。
 一般企業の当期純利益、税引き後利益に相当する、当期剰余についても、金融機関の場合、勝手に
処分して本国に付け替えることはできない。本国に還流するという発想そのものが、ボーダーレスな企業
会計というものが、理解できていないのかもしれない。資金も人材もボーダーレスに移動しているのが外
資というか多国籍企業の本質である。必ずしも正確では、けっしてないが、本社もしくは、上部組織に還
流される可能性は否定できない・・・と言ったほうが、まだましだろう。



 

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